• (左: ©マッターホルン・ゴッタルド鉄道 / 右: ©富士急行株式会社/Sagami-san)
  • (©マッターホルン・ゴッタルド鉄道)
  • (©富士急行株式会社)

富士急行株式会社 ― マッターホルン・ゴッタルド鉄道(1991年)

中部地方 | 山梨県南都留郡

スイスと日本を最も象徴する山にはそれぞれ100年以上の歴史を持つ鉄道があります。1991年の提携は、両社が21世紀も成功を重ねていく鍵になるでしょう。

富士五湖への乗車

(©富士急行株式会社)

山梨県の大月(358m)から富士河口湖(857m)まで車で40分も走れば雄大な富士山の麓に到着しますが、より賢い選択肢は富士急行線に乗ることでしょう。目の前に広がる180度のパノラマと最大40パーミル(2.29度)という鉄道路線としてはかなりの急勾配を体験しながら、同じ時間で快適な26.6kmの鉄道の旅を楽しむことができます。2019年3月からは、新宿~河口湖間をダイレクトに結ぶ特急列車「富士回遊」が運転を開始し、毎日2往復、土休日は3往復が運転され、富士山・富士五湖エリアへのアクセスが飛躍的に向上します。地方の私鉄としては、大したものです。

(©富士急行株式会社)

富士急行グループは富士山の近くにある富士急ハイランドも経営しています (©富士急行株式会社)

20世紀初頭の都留馬車鉄道を引き継いで1929年6月19日に創業した富士急行は、数十年に渡って地域発展の推進力となりました。バスや遊園地も運営する1926年創立のこの会社が営業する同名の鉄道は、1970年代後半に乗客数と貨物取扱量がやや減少しましたが、現在では観光主体へと方針を転換し、日本を最も象徴する山の近くまで旅行者や地元住民を送り届けるという大切な使命を担っています。それならなぜ、先頭車両に取り付けられているマークに別の山も描かれているのでしょうか。

(©富士急行株式会社)

富士山とマッターホルンの出会い

1991年、日本・スイス両国の鉄道ファンはそれぞれの国で二つの重要な記念年をお祝いしました。山梨県では富士急行が創立65周年を迎え、スイスのヴァレー州では歴史あるBVZツェルマット鉄道が百周年を迎えていました。間もなく両社はお互いに関心を抱き、山岳地の環境、外国人旅行者にとっての魅力、世界的に有名な山への地の利、そして企業価値に至るまで、多くの共通点を持つことに気づきました。

1991年:日本での姉妹協定調印式 (©富士急行株式会社)

1991年:ツェルマットでの姉妹協定調印式 (©富士急行株式会社)

こうして自然に姉妹鉄道提携という次の段階へと話が進み、数多くの専門的・人的交流が始まりました。2003年にBVZがマッターホルン・ゴッタルド鉄道(MGB)と合併する前から、富士急行はインフラ、整備、エネルギー、マーケティング、環境問題などを学ぶために多くの社員をスイスに派遣してきました。実は両社の関係が発展を続けたおかげで、2015年にツェルマットと富士河口湖町は姉妹都市協定を結ぶことになりました。

姉妹提携を機に富士急行の車両の一つが「マッターホルン」と改名。マッターホルン・ゴッタルド鉄道の車両「富士山」を記念して、同様の式典がツェルマットで開催されました (©富士急行株式会社)

その1年後、姉妹鉄道提携25周年を記念して、富士急行はMGBのデザインを複製した新型車両6000系マッターホルン号と公認商品を発表しました。さらに、スイスで最も有名な山に登る鉄道に敬意を表するため、著名な工業デザイナー、水戸岡鋭治氏に依頼してロゴを製作しました。

2016年:姉妹提携25周年を祝う両社 (©富士急行株式会社)

2016年9月:富士河口湖を訪れたマッターホルン・ゴッタルド鉄道の訪問団 (©富士急行株式会社)

スイスアルプスでの冒険

険しい山々、戦争、財政問題という困難はありましたが、MGBの歴史は成功の歴史です。1891年7月3日に開業したBVZと、第一次世界大戦のため数年の延期を経て1926年に開業したフルカ・オーバーアルプ鉄道という二つの地方鉄道会社が1930年に連携し、マッターホルン地域初の山岳鉄道ネットワークを構築して、ツェルマットとディゼンティスを結ぶ地域から乗客を運ぶようになりました。これを機に世界的に有名な氷河特急が誕生し、レーティッシュ鉄道を経由してサン・モリッツとツェルマットが初めて一本の路線で結ばれることになりました。観光ブームと数々の合併のおかげで、MGBは第二次世界大戦と自動車産業の台頭を生き延び、スイス鉄道業界における先進的事例となっています。全長144km、高低差3,300メートル、33のトンネルを通り、途中で126の橋や高架橋を渡る同社の鉄道は、今日でも山岳地域でユニークな冒険を続けています。毎年462の車両が47の駅で250万人以上の乗客と10万トンの貨物を運んでいます。

(©マッターホルン・ゴッタルド鉄道)

(©マッターホルン・ゴッタルド鉄道)

沿線は多様な魅力に溢れ、まるで絵本の中のロマンチックな景色のように、次々と現れる素晴らしい自然美の中を赤い狭軌列車が進みます。マッターホルンの麓の村、海抜1,605mにあるツェルマットを出発した列車はマッター谷とローヌ谷を通ってブリーク(670m)へ。絵のように美しいゴムス地方を通って、列車はウーリ州に入ります。オーバーアルプ峠で路線の最高地点(2,033m)に到達した後、マッターホルン・ゴッタルド鉄道の終点、ディゼンティス(1,130m)より先はレーティッシュ鉄道に直結しています。スイス・グランドトレインツアーで訪れてみてはいかがでしょう。

(©マッターホルン・ゴッタルド鉄道)

(©マッターホルン・ゴッタルド鉄道)