• (左: ©ブリエンツ・ロートホルン鉄道 / 右: ©大井川鐡道株式会社)
  • (©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)
  • (©大井川鐡道株式会社)

大井川鐵道 ― ブリエンツ・ロートホルン鉄道(1977年)

中部地方 | 静岡県榛原郡

19世紀のスイスの鉄道技術のおかげで、スイスの山岳観光業と大井渓谷の未来、そして地域を象徴する鉄道会社2社の関係が変わりました。

大井川沿いの蒸気

(©大井川鐡道株式会社)

レトロな蒸気機関車に乗って美しい山岳風景や茶畑の中を走る路線が静岡県にあると知っていましたか。島田から川根本町まで走る大井川鐡道は小さな私鉄ですが90年の歴史を持ち、南アルプスに向かう65kmの線路が大井川に沿って走っています。本物を求める多くの旅行者やテレビ・映画関係者らが年間約20万人も大井川本線を訪れ、4台ある1930年代の蒸気機関車や1950年代の木造客車に乗っています。大井川鐡道には普通の電車やディーゼル車もあり、百万人以上の通勤客や旅行者を運んでいます。

(©大井川鐡道株式会社)

(©大井川鐡道株式会社)

大井川鐡道は二つの点でユニークです。一つは、現在でも蒸気機関車を毎日運行している日本で唯一の会社だという点、もう一つは、1882年にスイス人技術者カール・ローマン・アプトが発明した革新的な急勾配鉄道技術であるアプト式ラックレール・システム(垂直歯車を取り付けた頑丈な棒をラック・アンド・ピニオン部に用いる)を採用している日本で唯一の路線だという点です。信じられないかもしれませんが、この技術こそが、大井川鐡道の路線を現在の形にしたのです。

日本で唯一のアプト式ラックレール・システム (©大井川鐡道株式会社)

復活とアプト式ラック

大井川渓谷沿いに貨物や建築資材、旅行者を運ぶため20世紀初頭に建設され、旧国鉄が所有していたこの路線は、ダム建設が終わり、全国的に高速道路網が拡大するにつれて、活躍の機会が激減しました。民営化された大井川鐡道は、旅客営業の縮小によって殆ど破綻した路線を観光の目玉にするという新たな方針を1976年7月に打ち出しました。

大井川鐡道が購入したクラシックな蒸気機関車の一つ (©大井川鐡道株式会社)

スイスのブリエンツ・ロートホルン鉄道(BRB)の成功と、その蒸気機関車のアプト式ラックレール・システム(摩擦式レールでは最高値となる7%を超える急勾配でも列車が走れる)を知った大井川鐡道は、古い蒸気機関車を2両購入し、同様に整備しました。実用的な交通手段から転換した新しい路線は、20世紀初頭の列車の持つ魅力、懐かしさ、開拓者精神を今に伝えています。

大井川鐡道とブリエンツ・ロートホルン鉄道:スイスと日本の友情に新たな物語が加わりました! (©大井川鐡道株式会社)

大井川鐡道とBRBは、両社の有益な協力関係と両国の鉄道遺産を守る努力を称え合うため、1977年12月12日に姉妹鉄道協定を結びました。友好と協力の精神に基づいて、毎年の訪問や情報交換が現在まで続いています。その結果、20年後の1996年8月10日には、金谷町(島田市)とブリエンツが姉妹都市協定を締結しています。日本・スイス国交樹立150周年を迎えた2014年10月には、鉄道写真家の中井精也氏が撮影したスイスの登山列車の写真26枚が大井川鐡道の車両内で展示されました。その中には世界に名だたるブリエンツ・ロートホルン鉄道の写真もありました。

2017年:島田市を訪れたブリエンツ・ロートホルン鉄道の訪問団 (©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)

2017年:ブリエンツを訪れた大井川鐡道の訪問団 (©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)

2017年:ブリエンツ・ロートホルン鉄道の専門的知識を学ぶ (©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)

アルプスの線路

ベルナー・オーバーラント地方のブリエンツにあるブリエンツ・ロートホルン鉄道は、1892年6月17日以来、ブリエンツァー・ロートホルン(2,350m)に向かって煙を吐きながらガタンゴトンと走り続けています。技師のアレクサンドル・リントナーと建築業者のセオ・ベルチンガが2年かけて完成させた鉄道の建設が可能になったのは、スイスアルプスの非常に勾配の急な斜面(25%)を克服する低コストかつ効果的な解決策をもたらしたカール・ローマン・アプトの発明のおかげです。BRBはスイスの他の山岳鉄道のように電化されておらず、完全に蒸気機関車のみで営業しているため、スイスの交通機関の中でも非常にユニークな体験ができる鉄道です。詳細はスイス・グランドトレインツアーでご覧ください。

20世紀半ば頃のブリエンツ・ロートホルン鉄道 (©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)

ブリエンツ・ロートホルン鉄道からインターラーケン地域を見下ろす景色 (©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)

小さな蒸気機関車はかわいらしい赤いパノラマ客車を押しながらトンネルを5つ通り、約1時間でブリエンツ湖からロートホルン・クルム駅(2,244m)まで登ります。この駅には、近くにあるユネスコのエコパーク、エントレブッフ(ゼーレンベルク)から空中ケーブルで行くこともできます。ベルナーアルプス、ブリエンツ湖、グリムゼル地域を見渡す景色は、ピラトゥスやホーガントの眺めと同じく壮大です。山頂にあるレストラン兼山岳ロッジ、ロートホルン・クルムは部屋の改装を終え、目を見張るような日没や日の出の眺めは宿泊客にとって忘れられない思い出となるでしょう。スイスと日本の鉄道会社の絆は、茶畑からアルプスの高みまで、両国の最も象徴的な場所を結びます。次回BRBに乗る時は、ぜひ緑茶を忘れずに!

ブリエンツ・ロートホルン鉄道のパノラマ客車でスイスアルプスに浸るユニークな体験を (©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)

(©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)

乗車中にアイベックスなど野生動物をよく見かけます (©ブリエンツ・ロートホルン鉄道)