• 東京のミュウミュウ青山店 (©ナカサアンドパートナーズ)

ミュウミュウ青山店

関東地方 | 東京都港区

スイスの著名な建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンの最新作が東京にあるのをご存知でしたか。もしご存知なら、その魅力的な構想の機微を知りたいと思いませんか。もしご存知ないなら、少しご案内しましょう。

巨人の影に

数多くの高級ブランドが軒を連ねる地という期待に反し、その道そのものは特にエレガントという訳ではありませんが、東京・港区青山のみゆき通りを彩る建築物には目を見張るものがあります。この表参道と青山霊園とを結ぶ単純に実用的な道路沿いには、建築規制や昔ながらの伝統によって建築が統一されることもなく、高さも形もまちまちな意匠の建物が立ち並んでいます。

東京のミュウミュウ青山店 (©ナカサアンドパートナーズ)

スイスの建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンは、すでに2000年代初旬には、彼らが設計したプラダ 青山店の近くに、新たな建築物を手掛ける可能性に気づいていました。果たして2012年から2014年にかけて進められたイタリアのファッションブランド「ミュウミュウ」の新店舗の建築プロジェクトについて彼らは、こぢんまりとしてくつろげる空間を模索する、と説明しています。その目的は?それは、その向かい側に彼らが最初に創った印象的なデザインに対抗し、人間的な雰囲気を街に提供するためです。デパートよりも住居に近い空間で、開け広げではなくひっそりと佇み、おおげさではなく控えめで、透明ではなく不透明、といったイメージに基づいて、アイディアはまとめてられていきます。

秘すれば花

東京のミュウミュウ青山店 (©ナカサアンドパートナーズ)

このようにして、「ミュウミュウ」青山店は2015年に完成しました。建築家自身の言葉によると、本プロジェクトの様々な条件に合致したモデルは、箱型の建物を地上レベルにじかに配置するというものでした。この箱の蓋を少し開いてできた隙間はエントランスとして機能すると同時に、道行く人が内部を覗けるようにもしています。覗いてみてやっとこれが店舗だとわかる程度です。大きな庇(キャノピー)の下に潜り込むと、2階建ての内部を一望でき、まるで巨大なナイフでざっくりと切り開かれたかのように店舗の内部が姿を現します。

東京のミュウミュウ青山店 (©ナカサアンドパートナーズ)

やわらかい丸みを帯びた銅製の内装の端部は、スチール製の外装をまとった鋭利な箱の角部と突き合わされています。ブロケード貼りの洞窟風のくぼみは、劇場のボックス席のように店舗の中央に向かって配されています。2階建ての店舗には、陳列用のテーブルやケースに魅力的な商品が並ぶだけでなく、ソファーやアームチェアをしつらえた、ゆったりとして心地良い邸宅のような空間が演出されています。

東京のミュウミュウ青山店 (©ナカサアンドパートナーズ)

さらに、彼らはファサードのロゴや装飾などを排し,その代わりにまるで大きな刷毛でさっと掃いて曇りを取り払ったかのように、ステンレススティールに部分的な鏡面仕上げを施しています。この鏡面ファサードは道行く人の目を惹くことでしょう。ところがショーウィンドウ越しに店内を覗こうとすると、逆に視線を跳ね返されて、あいにく映り込んだ自らの姿と対面することとなります。

東京のミュウミュウ青山店 (©ナカサアンドパートナーズ)

ヘルツォーク&ド・ムーロンについて

ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンは1978年にバーゼルにヘルツォーク&ド・ムーロンのオフィスを構えました。5人のシニア・パートナー、5人のパートナーをはじめ、44人のアソシエート、そして約450人の共同制作者と共に彼らが手がける作品はヨーロッパ全土、南北アメリカ、そしてアジアにまたがり目にすることができます。

ジャック・ヘルツォーク (左) とピエール・ド・ムーロン (右) (©ヘルツォーク&ド・ムーロン)

ヘルツォーク&ド・ムーロンは小規模の個人住居から大規模な都市デザインに至るまで、実に多岐にわたるプロジェクトを手掛けています。その多くはスタジアム、美術館、コンサートホール、病院など知名度の高い公共施設であり、エルプフィルハーモニー・ハンブルク、北京国家体育場、シャウラガー、バーゼルのローレンツ財団、ロンドンのテート・モダンなどがあります。現在、ヘルツォーク&ド・ムーロンは香港の視覚文化のための新美術館M+、チューリヒの小児病院、エルサレムのイスラエル国立図書館など、世界中で50を超えるプロジェクトに携わっています。

エルプフィルハーモニー・ハンブルク (©Maxim Schulz)

北京国家体育場

バーゼルのシャウラガー (©MünchensteinBasel / Tom Bisig)

ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンは、建築と都市化への卓越した貢献に対し、2001年のプリツカー賞(米国)、2007年のRIBA ゴールドメダル(英国)、そして同じく2007年の高松宮殿下記念世界文化賞(日本)をはじめ、数多くの賞を受賞しています。